課題の重要性及び交流の必要性

(1)研究交流課題の学術的重要性

B型肝炎ウイルス(以下HBV)・C型肝炎ウイルス(以下HCV)などの肝炎ウイルス感染により、肝臓は慢性肝炎から肝硬変へと変化する。さらに肝硬変からは肝癌が高率に発生する。2013年の全世界における各種疾患による死者数を調査したthe Global Burden of Disease Study(GBD2013, Lancet 2015)によると、肝炎ウイルスに起因する肝硬変・肝癌などの肝疾患により約145万人が死亡している。これは3大感染症(ヒト免疫不全型ウイルス(以下HIV)、結核、マラリア)を上回っており、肝炎ウイルス感染症は、現在地球上で最も重篤な感染症である。さらに東アジア・オセアニア地域は全世界の肝炎ウイルス関連肝疾患死亡者数の約40%を占めるており、東アジアでの肝炎ウイルス関連肝疾患研究は地域的な重要性を有する。近年の抗ウイルス療法の劇的な進歩により、HBVではウイルス量を低く保つことが、またHCVでは95%以上と極めて高率にウイルス駆除が可能になった。世界保健機関(以下WHO)は2030年までの肝炎ウイルス感染の制圧を掲げているが、肝炎ウイルス感染の制圧とそれに続く肝硬変・肝癌などの肝炎ウイルス関連肝疾患の撲滅に向けては以下のように解決すべき多くの学術的課題が存在する。1)HBV・HCV感染患者の効率的な発見と治療導入システムの構築、2)抗ウイルス剤耐性ウイルス出現機序の解明とその対策の確立、3)HBV完全排除を目指した新規抗ウイルス薬の開発、4)HIVやHDV共感染例への対策の確立、5)肝炎ウイルスによる肝発癌機序の解明、6)HCV駆除後肝癌診断マーカーの確立。本申請課題は、ウイルス性肝疾患に関して優れた研究実績を有する金沢大学が中心となって、充分な交流実績を有する中国、ベトナム、モンゴルの研究機関、さらにWHOと共にこれらのウイルス性肝疾患の撲滅に必須な学術的な課題の解決にあたるものであり、極めて重要である。

(2)研究交流を実施する意義

GBD2013によると肝炎ウイルス関連肝疾患により年間約145万人が死亡しているが、本申請課題に参加する中国、モンゴル、ベトナムを含む東アジア・オセアニア地域では年間約60万人が肝炎ウイルス関連肝疾患で死亡しており、これは全世界の肝炎ウイルス関連肝疾患死亡者数の約40%をしめている。WHOは2030年までの肝炎ウイルスの撲滅を掲げているが、この目標を達成するためには、東アジア地域における肝炎ウイルス撲滅が必須である。金沢大学は2017年にWHOのウイルス性肝炎・肝癌対策を推進するcollaborating centerの指定を受けた。WHO collaborating centerは国内、各国間、地域および地域間などグローバルなレベルで、国際的な協力ネットワークを作り、WHOの活動を支持することができる優れた施設として、WHO本部事務局長より直接指定される組織である。このように金沢大学は、WHO collaborating centerとして、東アジア地域におけるウイルス性肝疾患撲滅のための活動を行っている。またコーディネーター金子は、研究拠点形成事業(B.アジア・アフリカ学術基盤形成型)を実施し、中国・モンゴル・ベトナム、東アジア区域を管轄するWHO西太平洋支部(以下WPRO)と東アジア肝炎ネットワークを構築し、HBV関連肝疾患の撲滅を目指した国際共同研究を実施した(平成26-28年度)。中国はHBV感染者数が世界最多、ベトナムはHIVとHBV・HCV共感染が大きな問題となっており、モンゴルはHDV・HBV共感染数が世界最多である。このように本申請課題の参加国はいずれもウイルス性肝疾患撲滅のために重点的な対策を有する国である。また金沢大学は、世界に先駆けてウイルス性肝疾患患者の肝組織・血液の網羅的遺伝子発現解析を実施し、さらにHBV・HCVの複製機序の解明や抗ウイルス薬の開発に関する基礎・臨床研究を実施してきた。このように十分な研究実績に加えて、全ての参加機関との十分な交流実績を有している金沢大学が中心となって、本申請課題を実施することは極めて意義深いことである。

(3)研究交流課題の学術的成果

先行実施課題を通じて4ヶ国の研究機関とWPRO(WHO)で構築した東アジア肝炎ネットワークを最大限利用し、調査・共同研究を実施することで以下の学術的成果が期待される。
①効率的な肝炎ウイルス感染者診療システムの構築:肝炎対策上、新規感染者を効率よく同定し、抗ウイルス薬による治療導入や肝癌早期発見のための定期的な受診に結びつけることが極めて重要である。金沢大学は、日本国内でモデルとなっている肝炎ウイルス患者に対して金沢大学が毎年直接受診勧奨を行うシステムを構築した実績を有する。WHOの協力の下、本申請課題参加国にこのシステムを導入し、各国における肝炎対策を促進する。
②抗ウイルス療法に伴う諸問題の解決:HCV感染に関しては、抗ウイルス薬耐性ウイルスの出現機序の解明を行うことで、耐性ウイルスへの効果的な治療法を確立する。HBV感染に関しては、HBVを感染肝から完全に排除する抗ウイルス剤は未開発であるが、近年金沢大学が中心となって行ってきた閉環型HBV-DNAを標的とした新規治療法を発展させることで、HBVの完全排除を可能とする治療法の開発が期待される。またHCV、HBV、HDV、HIVなどの複数のウイルスが感染した場合の適切な治療法は確立されていないが、本申請課題の参加国であるベトナム・モンゴルは、これらのウイルスの共感染が大きな問題となっている。これらの症例の解析により共感染例への効果的な治療法を確立する。
③肝炎ウイルスによる肝癌に関する諸問題の解決:HBV・HCV・HDV感染による肝発癌機序は未だに明らかないなってない。本申請課題では網羅的遺伝子解析を駆使することで、これらのウイルス感染患者において肝発癌に関与する遺伝子やホストの遺伝子変異が明らかになる。これらの成果は新規の肝癌診断マーカーや肝癌治療法の開発へと発展する。またHCV感染は、強力な抗ウイルス剤の登場により95%以上と極めて高率にウイルス駆除が可能となった。しかし、ウイルスを駆除したにもかかわらず肝発癌することが問題となっている。本申請課題での成果は、臨床応用可能なHCV駆除の肝発癌の診断マーカーの開発へと発展する。

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